「虫歯があるので歯医者さんへ行ってきます。」
これは当たり前のことですね。
でも、もし虫歯が「歯だけ」の問題ではないとしたらどうでしょう。
実は近年、口の中の状態と全身の健康との深い関係が、少しずつ分かってきています。
口は、体の入り口
私たちは食べ物を口から食べます。
そして、食べ物は胃や腸で消化され、栄養となって全身へ運ばれます。
つまり、口・胃・腸は一本の道でつながっています。
そのため、胃や腸の調子が悪いと、口の中にも影響が出ることがあります。
「胃酸」が少ないと、実は困ることがあります
胃の中には強い胃酸があります。
「胃酸が多いと胃が荒れる」と思われがちですが、本来の胃酸には大切な仕事があります。
例えば、
タンパク質を消化する
鉄や亜鉛、マグネシウムなどのミネラルを吸収しやすくする
ビタミンB12の吸収を助ける
細菌が増えすぎないようにする
という働きです。
胃酸が少なくなると、栄養を十分に利用できなくなってしまいます。
ピロリ菌との関係
ピロリ菌は胃に住み着く細菌です。
長く感染していると胃に炎症を起こし、胃酸が十分に作れなくなることがあります。
すると、
タンパク質を利用しにくくなる
鉄や亜鉛が不足しやすくなる
粘膜を修復する力が弱くなる
ということが起こりやすくなります。
すると口の中では…
歯は毎日少しずつ傷ついています。
でも、唾液の働きで修復されています。
これを「再石灰化」といいます。
ところが、
カルシウム
リン
亜鉛
良質なタンパク質
などが不足すると、この修復力が弱くなることがあります。
その結果、虫歯や歯ぐきのトラブルが起こりやすくなると考えられています。
だからといって、「ピロリ菌=虫歯」ではありません
ここはとても大切なポイントです。
ピロリ菌がいる人全員が虫歯になるわけではありません。
逆に、虫歯がないから健康とも言えません。
人によって、
栄養状態
食生活
腸内環境
免疫
遺伝的な体質
が違うからです。
同じピロリ菌がいても、何も症状がない人もいれば、胃炎になったり、鉄不足になったりする人もいます。
体質によって反応はさまざまなのです。
大切なのは「敵をやっつけること」だけではありません
医療では、「悪いものを取り除く」ことが注目されがちです。
もちろん、ピロリ菌を除菌した方がよいケースもあります。胃がんの予防とかね。
しかし、それだけでは十分とは言えません。
胃酸が作れる体になっているか。
栄養は十分に吸収できているか。
口の中や腸の環境は整っているか。
つまり、ピロリ菌が住みにくい環境が整っているか、です。
こうした「体全体を整える視点」も、とても大切だと思っています。
お口は、体からのメッセージ
このように、虫歯や歯周病は、歯だけの問題ではなく、体全体からのサインかもしれません。
そして逆に、歯や歯ぐきに慢性的な炎症があると、その炎症や細菌の影響が全身に及び、さまざまな不調につながることも分かってきています。
もちろん、虫歯や歯周病は歯科でしっかり治療することが大切です。
でも、それと同時に、
「なぜ虫歯ができやすいのだろう?」
「なぜ何度治療しても繰り返すのだろう?」
という視点で体全体を見直してみると、新しい発見があることも少なくありません。
私は皮膚科医ですが、皮膚だけを見て診療をしているわけではありません。
皮膚も、口も、胃も、腸も、それぞれ別々の臓器ではなく、一つの体としてつながっています。
だからこそ、症状だけを追いかけるのではなく、その背景にある体全体の状態にも目を向ける診療を大切にしています。
皮膚は、体の内側を映す鏡。
そして、口の中もまた、体からの大切なメッセージなのだと思っています。
